著: クレア・ビショップ
アートと社会の関係性はいかに変化してきたか?
芸術史において見逃されてきた「参加」の系譜をアクロバティックに再編集し、現代アートの動向を批判的に読解する
☆美術評論家クレア・ビショップの代表作、待望の邦訳
今日のアートにおいては、「参加」――すなわち社会的関与を重視したプラクティスが、非常に重要な位置を占めている。国内では芸術祭やアートプロジェクトが百花繚乱の様相を呈しているが、国際的にも社会的、政治的な側面を重視したプロジェクト型のアートがあらたな文脈を築きつつあり、その規模と影響力は、もはや現代アートのメインストリームを占めているといってよいだろう。特定の集団や地域と相互に歩み寄りながら行なわれるプロジェクトがある一方で、倫理を逸脱した(とみなされる)アートは、ときに衝突と論争を巻き起こしている。
こうした状況がありながら「アートの社会的関与はどの時点で達成といえるのか?」「アートにおける<参加>をいかに評価するか?」「芸術と倫理の衝突をいかに考えるか?」といった根源的な問いについて、いまだ確固たる答えは出ていない。
クレア・ビショップによる『人工地獄(原題:Artificial Hells)』は、このようなアートと社会の関係性について鋭い考察を行なうものである。20世紀以降の芸術史から同時代のアートへと至る全九章の構成は緻密かつ類例のない大胆さをもつが、これには彼女が世界各国のプロジェクト型アートの実例に触れ、また膨大な人物へのインタビューを行なってきた蓄積が存分に生かされている。各章を追いかけることで、彼女自身のアートに対する洞察の深化さえうかがえるだろう。
ビショップは、アートには社会から独立した役割があると確信するが、それはとりもなおさず芸術が倫理を重んじなくともよいという意味ではない。むしろ彼女は作者性と観客性、能動と受動、加害と被害――これらが本質として対立的にはとらえがたいものであることを強調し、複雑に転じていく位相をひもとくことで、より慎重かつ正確な理解を求めようとする。
「敵対」と「否定」に価値を見出しつつ、それらを多層的にとらえ直すビショップの鋭く豊かな思考は、「関係性の美学」以後のアートの構造を理解するうえで必ず踏まえるべきものといえるだろう。
536 p
ISBN 9784845915750
2016